夫は、都内の有名病院に通院している。
19年位前に、ここの内科に、糖尿病の教育入院をしたことがある。
三年くらい前に、脳梗塞で半身麻痺になったとき、入院した地元の病院では、糖尿病については、わからないというか、的外れの診断をしていた。
なんとれっきとした糖尿病の夫を、検査結果もそのように示しているのに、脳梗塞の治療をしてくださったお医者さんが、「糖尿病の気がある」、とか、「境界域糖尿病」だとか、おっしゃたわけである。
歩けるようにしてもらったので、文句を言うわけではないが、糖尿病については、心もとなく思うわけで、そういうわけで、もともとかかっていた糖尿病の経過もわかるわけなので、都内の病院に行くことにした。
それで、都内の某有名病院に行った。
私の職場から近いこともあり、内科に通いながら、神経内科を紹介してもらい、受診することになった。
前に見てもらったとき、ここの神経内科の先生は、
「久里浜病院に行って、アルコール中毒を治してからでなければ、私は診ない」といわれて、私も手伝って、断酒するように命令された。
しかし、夫は、久里浜病院に行くわけもなく、断酒会にも参加しない。
私は、仕事を休んでアル中の家族会に行くわけにも行かず、そのままになっていた。
そして、脳梗塞になったわけである。
酒をやめなければ、命の保障はしないといわれながら、酒をやめるくらいなら、死ぬという夫。
私も、あきれて、酒代を渡さないようにするくらいしかできなかった。
すると、家の品物や本を売りに行って、お金を得て、酒を買う。
結婚祝いにもらった高価な時計や、ノリタケのティーセットを買い戻しに行く羽目にもなったし、本も、売った先がわかると、買い戻しに行った。
その後は、大事なものは私の部屋に鍵をかけてしまっておくようにした。
そういうわけなのだが、脳梗塞になって、再び都内の有名病院に行った。
私が途中から、神経内科の診察室に入ると、夫は、先生と、話をしていたが、私が、
「昨年脳梗塞で、入院しまして」と話すと、先生は、
「その話、しなかったよね」と、言う。
夫は、都合の悪いことは何も言わず、適当にしゃべっていたらしい。
「奥さんからちゃんと聞かないとわからないですね」と先生が言うので、私は昨年からの経過などを話した。
「脳梗塞で2週間入院した後も、立てなくなっていて、救急車を呼んだら、救急車の人も病院へ行ったほうがいいですよといったんですけど、明日までいいよといって、行こうとしなかったんです。でも次の朝になったら歩けるようになっていました。もう、棺おけに片足突っ込んでいますよね」
と私が言うと、先生は、大きくうなづきながら、
「うーん、それはまさに棺おけに片足突っ込んでいる状態だ・・・」
と、うなっていた。
先生に納得されてしまうのも、実に妙な気分だったが、とりあえず、今度の先生は、
「酒をやめなくても診てあげますよ。でもやめたほうがいいけど」
と言う。
酒は、百薬の長とか言うが、神経に対しては、明らかに毒なのだそうだ。